035.髪の長い女 彼女が好きだ。 どうしようもないほど好きなのに、自分がそれを言っても冗談にしか聞こえないだろうから。 こんなに好きなのに、自分は彼女に伝える術を持たなくて。 毎日毎日、どうしようもないことについてずっと悩んでる。 「あ」 デュランダル内で、ふと彼女と似た後ろ姿を見つけて目が止まった。 彼女じゃないことは分かっているけれど、つい見つめてしまう。 彼女よりは少し明るい茶色の、長い髪。 背も、少しばかり高いようだ。 それでもそのなかに彼女を見てしまって、苦笑するしかない。 こんなに好きなのに、例え伝えても自分では叶うことはないから。 どうしようもないことだというのは分かっているけれど、それでも。 「Jr.くん?どうしたの?」 突然後ろから聞こえた声に、一瞬で意識が戻る。 愛しいこの声は、間違えようがなくて。 「…シオン」 振り返ると、先程似た後姿の女性の中に見てしまった彼女が、後ろで微笑んでいた。 「おはよう、Jr.くん」 「あ、ああ、おはよう」 こんな小さいことにも嬉しくなる自分。 ただの挨拶なのに。 ガイナンやあの姉妹とも、毎日交わしてるのに。 何で相手が彼女というだけで、こんなにも嬉しいのだろう。 「……重症だ」 「え?」 「いや、なんもない」 ぽそりと呟いただけのそれに、律儀にも聞き返してくる。 それに首をふって答えると、彼女は少し首を傾げて。 「そう?ところでJr.くん、モモちゃんが探してたわよ?」 「モモが?」 「ええ。なんだか嬉しそうだったけれど」 「嬉しそう…?」 自分と同じくらいの背丈のあの少女は、驚くくらいに素直だ。 あれくらい素直になれたらと思わないこともないけれど、それでも自分にできそうでないことは確かで。 大体、素直になったところで。 「シオン」 「なに?」 「好きだ」 「私も好きよ?」 間髪なしに、返してくる彼女。 これだから、自分は毎日悩むのだ。 この身体では、伝える術があってもそれは伝える術とならない。 相手が自分の弟だったら、彼女もこうは返さないだろうに。 この子供の姿では、伝える言葉が愛でも伝わる言葉は子供の好きになる。 どうしようもないのだと、分かっているのだけれど。 ため息をついた自分に、彼女は首を傾げて。 「Jr.くん?」 「何でもないよ、シオン」 自嘲気味のそれにならないよう、気をつけながら苦笑した。 どうすればいいのかと、どうしようもないことについてずっと考えるしかなくて。 それでも彼女が好きだから、更にどうしようもなくて。 好きなのに。 こんな好きなのに、どうすればいいのかと。 今度は本当の彼女の後姿を見つめながら、目を細めた。 2004 7 12 この二人が大好きなのです。ゆくゆくはくっついてしまえばいいよ!! ご精読ありがとうございました。 |