突然降ってきた声に、しかしテッドは驚くこともなくゆっくりと閉じていた目を開いた。 日が暮れようとするこの時間、それでも逆光となっていて顔は見えないが、黒髪とこの地独特のデザインの朱色の服。 そして何よりも、先ほどの―――声。 この声だけは聞き間違えることはないと断言できるほどに、大切な。 「何かあったのか?」 「別に何も。あったのはテッドの方じゃないのかい?」 どういう意味だと眉を寄せると、寝転んでいる自分を覗き込むように立っている少年が笑う。 「クレオにしかられた時、グレミオを困らせた時。その後はいつもここに来てるのに、自覚ないんだ?」 「…そう、だったか?」 「そうだよ」 思いもよらない言葉に驚いて瞬くと、楽しそうな声が再度降ってくる。 いつもいつも、この少年は笑っていて。 何がそんなに楽しいのかと思っていたが、ふと気付いた。 その笑顔に安堵しているのは、誰よりも。 「テッド?」 「何でもないって」 何かを感じたのだろう。目を細めた自分に、僅かに心配げな音をのせて名前が呼ばれる。 かなわないと思うのはこういう時だ。 何も知らない、何の苦労もしていないはずなのに、この少年は驚くほど人の気持ちを察する。 帝国五大将軍が一人、テオ・マクドールの嫡男であるその身ならば大抵の我が侭は通るだろうに、テッドはがそう言えるほどのことを周囲に強請っているところは見たことがない。 子供なのだからやはり悪戯は相応に好きだし、こちらから誘うこともあれば自分から誘ってくることもある、一緒に怒られたのも決して少なくない。 なのに何故か、の空気はいつも、穏やかで。 ―――癒される。 「……」 「何?」 未だ笑いを含んだ、だけど柔らかい声。 呼べば応えてくれる、ただそれだけが泣きたいほどに愛しい。 「まだ帰らないけどさ」 「うん」 独りではないのだと、この三百年間いつも取り巻いていた不安が、彼の前でだけは霧散して。 分かっているのに、離れられない。 「帰ったら……一緒に、謝って」 離れなきゃいけないのは、分かってるのに。 「一生のお願い、だからさ」 ―――本当に言いたいのは、それじゃないのに。 2008 3 2 テッド大好きー!!!坊ちゃん大好きー!!!二人とも大好きー!!! 普段なら「一緒に謝ってくれよ」ですが、今は弱い部分が浮上しているので気弱語尾。 多分テッドは坊ちゃんに一番側にいてほしくて、一番側にいてほしくないと思ってる。 三百年間でやっと出会えた心から許せる親友に、だけどソウルイーターの餌食にしたくないから、坊ちゃんに会ってからもずっと一人で戦ってたのかなと思います。 テッドが本当に何の恐れもなく坊ちゃんと接することができたのは、あの最期の、ウィンディの支配から逃れてからの僅かな時間だけだったのかと思うと泣けてくるちくしょう…!!! ご精読ありがとうございました。 |