097:アスファルト












「到着致しました」
その言葉と同時に、車が止まる。
そして助手席に座っていた男が後部座席にまわりドアを開けた。
途端に感じる熱気、そして太陽がアスファルトに反射し、相乗効果で襲ってくる熱そのものに眉を顰めながらも車を降りて辺りを見回すと、遠くから独特の音楽が聞こえてくる。
「…騒がしいな」
「これがオマツリというやつらしいですよ」
そう言うクレイはなんとなく声が弾んでいて、このオマツリとやらを楽しみにしているのだということが分かった。
「うお〜楽しそうだなあ」
「ヤタイっていうんだろ、あれ」
「やっぱユカタは日本人が着てこそいいよな〜」
後ろから聞こえてくる複数の声はなんとなくどころではなく、明らかに弾んでいる。
カタコトでもちゃんとそれぞれの名称を網羅しているあたり、今すぐにでもあの人込みの中に入っていきたいのだろう。
そう思って後ろを振り返れば、明らかに期待に満ちた目でこちらを見つめていた。
今か今かと、自分の言葉を待っている。
クレイはクレイで苦笑するだけで、それでも楽しそうなのは変わらず。
「…行ってこい」
「ただし、面倒は起こすなよ」
許しが出て、彼らの目は一層輝いた。
片腕であるクレイに釘をさされはしたがそんなことは問題ではなく、それぞれ自分の財布を手に(もちろん日本紙幣あり)、ニューヨーク一帯をおさめているマフィアの者達は人込みに向かって走って行った。
その部下達の後ろ姿を見つめて、二人はゆっくりとその後を歩き出す。
「まるでガキだな…」
「ですね。とても『猫』の一員には見えません。なんだったら、ホテルに残してきた者も連れてくればよかったですね」
そういうクレイは笑っていて、見つめる目も穏やかで。
ただ暑くて騒がしいだけだろと小さなため息をつくと、クレイは静かに、だがくつくつと笑い出した。
「…何だ」
「いえ、あまりに予想通りの反応をなさるもので」
「………行くぞ」
「はい」
憮然とした自分の後ろを一歩下がって歩くクレイは未だに笑っている。
一番付き合いが長いせいか、この男はたまに片腕を越えた距離の発言をしてくることがあった。
まさしく今はそれで、言葉遣いこそいつもと変わらないが、そのいつもだったら言わないようなことを言ってくる。
組織のボスとその片腕というよりも、それは以前の二人の距離に近い。
 ずっと以前の。
「そういえば」
「あ?」
「カチワリとアンズアメ、どちらを召し上がりますか?」
「…何だその二択。つーか何だそれ」
「日本の伝統的お菓子ですよ。リンゴアメもございますし、バナナチョコレートも」
「…帰る」
「分かりました、バナナチョコレート買って差し上げますから」
「誰がいるか!」
「あはははは!」
















2004 7 18
に以前の日記に以下省略。(現在2006 6 11)
状況説明を致しますと、なんかの理由で『猫』の人達が日本に来て、近くでオマツリがあるのを知ってグレンはもちろん行く気ゼロだったのをクレイとかビクトールとかが無理やりホテルから引っ張り出してきたという感じです。

ご精読ありがとうございました。