ガタガタと先程から震えている様を見ると、思わず何なんだと呟きたくなる。
こうなることは分かっていたはずで、それを承知でこの男は行動したのだから、今更何を怖がっているのか。
そんなに恐怖を感じているのなら、想定した時点で止めればよかったものを。
 馬鹿な男だ。
微かに眉を顰めながら拳銃をそちらに向けると、チャキと小さな音がした。
 僅かながらもこの狭い部屋に響いたそれは、当然この震えている男の耳にも届いたはずで。
それを証明するように、先程まで青かった男の顔は、今は白い。
その頬を、涙が伝った。
「…けて、くれ…」
 馬鹿な男だ。
グレンシールは再び思った。今更そんなことを言っても、どうにかなるものではないというのに。
これ以上こんなことのために時間を費やすのは勿体ないので、あっさりと引き金をひく。
 至近距離といえなくも無い距離のおかげか、はたまたこちらの腕がいいからか。短い悲鳴もあげることなく、男はグラリと揺れて後ろに倒れた。
その妙にゆっくりしている動作を見届けてから、自分の背後にいる男の一人に拳銃を渡す。その男と同様に、背後で控えていた別の男が狭い部屋の扉を開けて、一歩廊下へと踏み出してから、グレンシールはたった今自分が殺した男を振り返った。
 硬いコンクリートに頬をつけて、眉間に一つ、黒い穴があいている。
「埋めて置け」
未だ部屋の中にいる二人の部下は小さく頷き、その処理にかかった。
それを見るでもなく廊下に出てしまうと、ふと暗いはずの廊下が明るくなってきていることに気づく。
 この狭いアパートメントは、東向きに建てられているのと海に近いためとで夜明けが早い。
自然な流れで廊下のつきあたりにある窓に目をやれば、陽が昇ろうとしていた。
 三十分もあの部屋にはいなかったはずだが、いつのまにか夜が明けるほどの時間になっていたらしい。
小さく舌打ちをして、グレンシールは階段を下りていった。









アパートメント正面に止めてあるメルセデスの運転席で、クレイは陽の眩しさに眉を顰める。
 先程まで暗かったのに、ほんの三十分で変わるものだ。
そんなことを思いながらアパートメントの方へ視線を直すと、一人の男がちょうど出てきたのが見えた。
すぐさま運転席から降りてまわりこみ、後部座席のドアを開ける。
グレンシールが乗り込んだのを確認して静かにドアを閉め、慣れた動きで運転席へ戻った。
 処理を命じられた二人の部下は、また別の車で後からやって来る。
メルセデスはすぐに発進した。
「どうでした?」
「助けてくれ、だとさ」
「それはまた…」
目を閉じたグレンシールをバックミラーで時折見やりながら、クレイは呆れたような声を出した。
「何とも情けないですね」
「まったくだ。わざわざ出向いてやったのに」
不機嫌そうに呟いて、開けた途端目に入って来た陽の光に眉を顰める。
太陽はまだ昇りきらないのか中途半端な位置に浮いており、ちょうど顔にあたるのだ。
 色素の薄い自分の前髪は、ちっとも光を遮断してくれない。
グレンシールは顔を下向きにして、そんな太陽の攻撃から身を守った。
「…ですが」
言葉を選んでいるような、そんな僅かな間をおいてクレイが再び話し出す。
「やっと静かになりますね」
「うるさかったからな」
「ええ、本当に」
さっぱりとした、という気持ちが声音に溢れている。
余程うっとうしかったのかと微かに笑って、ゆるりとグレンシールは目を閉じた。
それを合図に、クレイも口を閉じて運転に集中する。
 ぐずぐずとしていた太陽が、ようやく昇りきった。
























2004 4 7
車についてはノーコメントでお願い致します。

ご精読ありがとうございました。