閉のボタンを、ついで最上階のボタンを押したところで後ろから抱きしめられた。
うなじに口づけられてぴくりと肩が震える。
ドアがまだ、とも思ったけれど、こいつがそんなミスをおかすような性格ではないことに気付いて素直に力を抜いた。
腕の中で振り返り、今度は額にキスされて。
「ドア開いたらどうするんだよ…」
「それはそれで構わない」
「馬鹿、俺は構う!」
それでも、頬に口づけられれば途端にどうでもよくなるから情けない。
見れば箱はまだ最上階までの半分にも達していなかった。
一応夏休みシーズンだから客はたくさんいるわけで、いつドアが開くかも分からないのに。
もっとキスしてほしいと思うのは、すぐに解かれるとは分かっていながらも一応、密室と言える場所だからなのかもしれない。

2005.8/14
エレベーターでグレアレ。
一応下のと対になってますので、一つ前のダブルグレアレと日にちがずれますがこっちに。
某グレアレサイト様がこれを元にイラを描いて下さって、あの時何で私はそのイラを下さいと図々しくもお願いしなかったのか今も悔やまれます…!





つい、手が伸びた。
腰を抱いてボタンを押したその右手を包み込み、うなじに口づける。
反射的にか肩がふるえて、それでも素直に力を抜く様が愛しい。
と、覗き込むように振り返られてそのまま額にキスをする。
「ドア開いたらどうするんだよ…」
「それはそれで構わない」
「馬鹿、俺は構う!」
抗議の声と共に眉がつりあがるが、頬に口づけただけでそれはすぐに弛んで、同時に目元も淡く染まる。
かわいいと思うのはこういう時、で。
箱がまだ半分にも達していないことを知ると、目を伏せた。
そのまま特に離れようともしないその意味に気付いて、腰を抱く腕を強くした。

2005・8/15
上のグレンver.。





結局、その報せがグレンシールの元に届いたのは夜半過ぎの空港でだった。
ファーストクラスとはいえ、やはりどこかくつろぎきれない感はある。やっと解放されたと思い出口にむかったところ、出迎えたのは元々いるはずの幹部ではなく、待機を命じておいたはずのアップルやキルキスだった。
その時点で何かあったとは簡単に予測がつくが、問題はその報せの内容だった。
「…テオが?」
目を見開いて信じられないといった表情で言うグレンシールに、苦々しげにアップルは頷く。グレンシールのすぐ側に控え、イタリアからの飛行機に同乗してきたクレイも目を見開いて驚くばかりだ。
あの、テオが。
唇を軽くかみしめながらも素早く周りに目を配り、まだ周囲が注目していないのを確認してからグレンシールは歩き出した。その後をクレイ以下アップルや幹部が慌てて追う。
「屋敷に戻る。話は中だ。…くそっ」
最後に小声で吐き出されたそれは、グレンシールの感情をありありと伝えるもので。
一人それが聞こえたクレイは、沈痛な表情で前を行くグレンシールの背中を見る。テオの経営する店で話し合ったあの短い時間で、グレンシールが少なからず尊敬にも似た気持ちをテオに持ったのを知っているだけに、今どんな気持ちでいるのか少しは分かるつもりだ。その度合いがどれほどまでだったかは分からないが、それでも。
自分の主の気持ちを思って、クレイは拳を握った。

2005.9/27
『夜明け』ボツ文2。
時間軸的には四話目の直後。





結構豪華だ。
心の底からそう思いつつ、アレンは初めて見る部屋を何気ない振りで見回した。自分が今いる豪華なベッドに調度品、床には感触の良い絨毯がひかれていて、思わずここはどこかの高級ホテルなのではないかと疑いたくなる。もちろん違うことは分かっているのだけれど、ある意味合ってるかもしれないと少し思った。
「でも本当に豪華だよな…」
「あ?」
ぽそりと呟いたそれに、隣から反応が返った。この部屋に入った途端に今二人がいるベッドに寝転んだグレンシールは、いつもの無表情で端に座ったアレンを見上げている。
「豪華だよなって言ったんだよ。どっかのホテルみたいだ」
「普通の部屋選んだはずなんだけどな。ま、変にベタな部屋じゃないからいいけど」
そう言ってちらりと室内を見回すグレンシールにつられて、再度アレンもそう広くもない部屋に視線を移した。先ほど見たのと変わるはずも無いそれは、やはりどこかのホテルの一室みたいだとアレンに同じ感想を抱かせる。グレンシールも同様のことを感じたのか、「そこらのホテルよりよっぽどいい造りだ」と呟いた。
「でも値段高くなかったよな。他のよりも安いくらいだったし」
いくつもある部屋の写真の中から一番まともそうなのを選んだのだが、そのまともそうな部屋がこれでは他の部屋は一体どうなっているのだろう。
少し覗いてみたい気もするけれど、廊下をうろうろしてカップルに出くわすのは気まずい。ここはそういう目的のためにあるわけで、だから当然ここにいるということはそれをするということで。
早い話が、ここはラブホテルだった。
「普通はそういう部屋を選ぶんだろ。わざわざこんなとこに来たのに普通のホテルみたいな部屋選んでも意味ないし」
「そんなもんか…?」
「じゃ、部屋変えるか?」
「い、いい!」
「だろ?」
くつくつと、それこそアレンの反応を予想していたかのごとく笑うグレンシールは意地が悪い。そんなことはとっくに分かっていたはずだが、それでもムカつくことに変わりは無くて。
「グレンシールのアホ」
「アホで結構、お前はガキだな」
「…ムカつく」
うー、と眉をつりあげたアレンにグレンシールはまた笑って、ゆっくりと上半身を起こした。ギシとスプリングが鳴ってアレンの体も少し揺れる。
「風呂、先入る」
「ああ、うん分かった」
多分髪についた香水の匂いが嫌なんだな、と予測をつけながらバスルームへと向かう背中を目で追った。別に香水自体が嫌なのではなくて、ただ単に香りが強すぎるものが嫌なのだ。それはアレンも同意見だし、強すぎる香水ほど迷惑なものはない。
つい先ほどまで二人がいた合コンという場所では、特に。
別に出たくて出たわけではなくて、友達のつき合いだった。大学に入って一年と半年、その間に誘われた合コンの数はいざ知れず、何でそこまでやりたいんだろうと不思議に思うほど二人は誘われた。時には「お前達がいると女の子のテンションが違うんだよー!来てくれー!」と泣きつかれてその対処に困り、時には「何でお前らはそんなに顔がいいんだー!」と理不尽な怒りを受け。そんな周りに辟易しながら首を縦に振らないのは、面倒なのと行く必要がないから。
「相手いるし」
バスルームから水音が聞こえて、アレンはごろんとベッドに寝転んだ。視界に広がる天井は普通の壁紙で、よくあるパターンの大鏡とやらは設置されていない。
本当に普通の部屋でよかったと安堵の息をつきながら、それでもやはりというかなんというか、今アレンがいるベッドは男二人が寝転んでも十分なサイズで、例え内装がどこかのホテルのようでも目的は一緒なんだと変な感心をしてしまう。
「やっぱ、やんのかな」
まあそういう関係なのだから全然異議はないのだけれど、こういう所でというのは初めてなので少し変な気がする。お互い一人暮らしだから家族を気にすることもないし、大体ここに入ったのはそれが目的ではなかったから。

2005.10/28
初めて出した同人誌といってもコピー本ですが、その冒頭シーン。
一年経ったからということで日記に載せたらしいです。
ラブホなのでこの後は当然やっちゃってます。





■(日記より抜粋。前フリ)
ここ最近少しずつ寒くなってきてちょっと嬉しいです。
やっぱり冬はめさくさ寒くないと駄目ですよね!冬があったかかったらグレンがアレンにひっつけないじゃないですか!
うちのグレンは睡眠(と読書)が趣味なので寝起きは最悪なんですが、冬は更に顕著かと。
特に朝とか全然起きてこないので、冬はアレンが毎朝起こしに行くといいです。

赤「(寝室のドアを開けて)グレン起きろ!朝だぞ!」
緑「(爆睡)」
赤「(ベッドに近寄って肩を揺すって)おいグレン、朝だぞ、朝!仕事遅れるぞお前」
緑「…………?……アレン…?」
赤「何で毎日起こしにきてやってんのに疑問系なんだ…。ほら起きろ、そろそろ用意しないとまずい」
緑「………無理」
赤「はぁ?」
緑「寒い…からでたくない」
赤「でたくないって子供かお前…こんな時だけかわいこぶるな!さっさと起きろ!」
緑「無理……」
赤「もぐるな!あーもう、じゃあ俺行くぞ。クビにされたって知らないからな」
緑「(既に眠りの世界へゴー)」
赤「っ、起きろこの馬鹿!!」

で、今はもう慣れてるからこういうこともできるけど学生時代はまだそこまでできないので思い切りアレンが困るんですよ。でも律儀な性格だから毎朝起こしにくる。
それを逆手にとって寝ぼけたふりしてグレンが抱きついたりすればいいよとか思うんですがどうですか。
そしてクレイに見られて
「お、お前ら…」
「ち、違うんだってクレイ!!」
「いや分かってる、分かってるから大丈夫だアレン。先生にはいいように言っておいてやるからゆっくりな☆じゃ☆」
「いや分かってない、分かってないからっていうかわざとだろクレイ!!戻って来いー!つーかお前もいい加減起きろグレン!!」
とか会話してくれてたら可愛いなぁなんて。

2005.11/4
思えばこの時から、『夜明け』を除いて少しずつクレイを前面に出すようになってきました。
小話ではないんですが、クレイとアレンの会話が珍しく気に入っているので一応。





風邪をひいているとはいえ流石に将軍職が二日以上仕事を休むことは出来ない。
いくら副官が優秀でも将軍でなければ決裁できない書類というものは必ず存在するもので、またこういう時に限って、その種の書類が多いのはこの世の常というもので。
「お疲れ様でした、グレンシール様」
発熱とこみあげてくる吐き気という典型的な風邪の症状に耐えながら書類を決裁し終えた上司は、本来賓客が座るはずのソファに体を預けぐったりとした様子のまま微かに頷いた。
ここまで辛そうなグレンシールを見るのは赤月帝国時代からの付き合いの自分でも初めてで、今すぐに帰った方がいいのではと朝から何度も思ったそれを今再び思う。
思うのだけれども。
「……悪い」
タオルを氷水に浸して絞っていると、風邪のためいつもとは少し違う声が聞こえた。
適当にやっているように見えて実はあの火炎将に劣るとも勝らない責任感を持っていることを、自分は知っている。
ただ手を抜くのがうまいから、適当に見えているだけで。
微笑んで、氷水に浸していたタオルを絞った。
「いえ、お気になさらず。それより、少しはゆっくりお休み下さい。ここのところまとまった休みをとられていなかったでしょう?」
「…まあな」
そして額に乗せるのにちょうどいいくらいの大きさにたたむ。
大体これくらいだろうと見積もって、振り返った。
「流石に一週間は無理ですが、五日間くらいなら調整もつきま……………」

2005.12/21
本当はこの後に、発熱して汗かいてて妙に色っぽい左将軍に焦る副官が続くはずでした。





見定められているのかと思うと全てが不愉快だ。オークショニアが「さあ、まずが4000から!」と言い放つと次々に声があがり、共に値段も跳ね上がっていく。
その盛り上がり様を内心で嘲りながら、そんなに殺して欲しいのなら殺してやる、と呟いた。
『猫』のボスがいないのなら、せめて『猫』に属している組織の奴を殺してやる。
こんなオークションに来るということは、ある程度の大きさの組織ではあるはずだ。テオの仇をうつことはできなくても、少しでも損害を与えられれば、と。
そう思った時、途端に金額が跳ね上がった。1000や2000じゃない、桁を二つ、余裕で越えたその値段に、先ほどまでの値段を競る声は途端に止んで、代わりにざわめきが会場内に広がる。
「それでは三十万で落札です!!」
朗々としたマイク越しの声が響くとほぼ同時に、客席の中央よりやや上、明らかに特別屋だということが分かるその部屋から一人の男が出てきた。
ステージとは対照的に薄暗い客席に、ある種の緊張が走って。
何だとアレンが訝しむ前に、やっと客席前列に来た男の顔が見えて。同時に驚愕する。
皆が注目する中、平然とステージへの階段を上って眩い舞台に立つその男は。
あの日、廊下ですれ違った―――『猫』の片腕、クレイだった。

2006.1/17
時間軸的にはアレンがオークションのステージに出されたところです。
本当はグレンがあの場で落とすはずだったんですが、それだとありきたりかもということで急遽中年男に間に入ってもらったはいいものの、こっちの方が展開が早くて楽でした。





受信メールボックスを開き、先ほど届いたばかりのメールを開く。
そこにはたった六文字、『めんどくさい』。
彼が持っているのはメール機能のついていないPHSではなく、間違いなく携帯だ。
なのに使うのは電話のみ、むしろメールという機能があることさえも忘れていそうなほどにメールをしない親友兼恋人に、勧めて命令して強請って頼んで命令して頼んで命令して命令してようやく届いたそれ。
顔文字も絵文字もない、それどころか句読点さえもないそれが、しかしひどく嬉しくて。
自分宛に送るよう自分で彼に言ったのだから、それが届くのは当たり前なのだけども。
着信履歴には多々あれど、受信メールボックスにはそれこそ一回も表示されることのなかった名前が、今は一番上に。
 そのことが、何よりも嬉しくて。
先程から何回もメールボックスを開いてはメールを見るという動作を繰り返している自分をおかしく感じながら、それでも。
届いたその直後に迷いもなく保護にしたそのメールを、ひどく幸せな気持ちで。
そろそろ充電しなきゃいけないのになと思いながら、アレンはまた開いた。

2006.3/27
色々我慢できなくなってバカップルを打ちたくて打った小話。