「マクドール殿」 「はい」 名前を呼ばれて振り返ると、亜麻色の髪をした騎士風の男がいた。 にこにこと笑っているその顔は一見女性のような感を受けるが、その強さは以前盟主であるから聞いたことがある。 (確かカミューさん、だったかな) 未だ同盟軍本拠地に来て日が浅いは、主要メンバーも全員は把握していない。 それでも咄嗟に思い出すことができたのは、記憶力が人より少しはいいのと三年前の軍主の経験があるからだ。 『殿、軍主としてまず一番に覚えていただきたいのは、敵味方問わずに重要人物の名前と顔を一致させることです』 稀代の名軍師と言われた男は、軍主なりたてのにそう言ったのだ。 軍の筆頭であるがそれを覚えるのは当然のことで、それから無意識のうちに重要な人物は頭に入れておく癖がついたが、それがこんなところでも役に立つとは思わなかった。 心の中で苦笑しながら、はこちらへ歩いてくるカミューに笑い返す。 「カミューさん、どうかなさいましたか?」 隣に並んだカミューはの声におや、と少し驚いた顔をして、また穏やかに笑った。 「私の名を覚えていて下さったとは光栄です。私の記憶違いでしたら失礼ですが、私はまだ一度も貴方とお話をしたことはなかったと思いますが」 「お話したことはありませんでしたが、からよく聞いています。手合わせをしてもらったとか、とても嬉しそうに話してくれますよ」 なるほど、と苦笑したカミューはどこか嬉しそうで、未だ幼い盟主を慕っていることが分かる。 なんとなく微笑ましくてそのまま見つめていると、カミューはその視線に気づいて照れたように笑った。 「ところでマクドール殿、貴方に差し上げたいものがあったのです」 「僕にですか?」 「ええ」 身長差のため見上げたににっこりと笑い、カミューは一冊の本を差し出した。 (ロックアックスの元赤騎士団団長って聞いたけど…騎士ってみんなこうなのかな?) 動作の一つ一つが優雅で、何故か華がある。 それはこの男の綺麗な、と形容するしかないような容姿も大いに関係しているのだろうが、騎士とは結構こういうものなのかもしれない。 そんなことを思いつつ差し出された本に目をやると、あまり厚くもない、サイズの小さな本だった。 見るからに、兵法書とかの類ではないことが分かる。 「これは…?」 首を傾げながら再度カミューを見上げると、完璧としか言いようが無い笑顔が向けられる。 「少し必要を感じて買ったものなのですが、私はもう読んでしまったので…捨てるのも勿体無いと思ったものですから。いかがですか?」 「え、と…本当にいいんですか?」 「はい。そんなに厚くもありませんし、お暇な時の時間つぶしにでもつかっていただけたら」 カミューの手にある本のタイトルは、本全体にカバーがかけられていて見ることが出来ない。 といってもこの男が買ったものなのなら別に怪しいものではないのだろうし、恋人であるフリックが書類処理に追われていて暇なのは確かだし。 「…じゃあお言葉に甘えて、いただいていいですか?」 「はい。私一人で終わるより、マクドール殿にも読んでいただいた方がその本も喜ぶでしょうし。是非もらってやって下さい」 「ありがとうございます。部屋に戻って読ませていただきますね。…ところで、これはどんな内容のものなんですか?」 差し出された本を受け取り、は視線を本からカミューへと戻した。 見上げられた相手は笑って、ただその笑みの種類が先程まで見せていたものとは異なり―――例えれば、まるで悪戯をするような笑顔で、こう告げた。 「恋愛小説ですよ」 「……は?」 この瞬間、は初めて同盟軍内で年相応の顔を見せた。 ぱら、と紙をめくる音が響く。 最初それは一定のペースで繰り返されていたが、時間が経つにつれ遅くなり、ついには五分経っても紙はめくられないようになり。 「………無理だ」 ぽつりと、は呟いて本を閉じた。 腰掛けていた椅子から立ちあがり、そのまま近くにあるベッドに倒れこむ。 このまま眠ってしまおうかと少し思ったが、なんとなくテーブルから威圧感を感じる。 完全に自分の被害妄想だということは分かっているが、それでも感じるものは感じるのだ。 「……」 ちら、と横目でテーブルに置いたままの本を見上げて、は深いため息をついた。 ほんの数時間前の自分を恨みたくなってくる。 (もらったからには感想を言った方がいいだろうと思って読んでみたけど…) ページはまだ四分の三ほど残っている。 昼間から読み始めて、もう夕食時間も過ぎているのに結果がこれだ。 はっきり言って―――読みたくない。 これ以上読んだら、カミューには申し訳ないが間違いなく笑い出してしまう。 しかし誰かにあげるわけにもいかない。それはあまりにも失礼だ。 「…どうしよう」 ベッドにうつぶせになったまま重いため息をついた。 「?いないのか?」 「…フリック?」 ノックの音と共に聞こえてきたのは、大事な人の声。 慌ててベッドからおりて扉を開けると、いないと思っていたのだろうフリックは少し驚いて、すぐに笑顔になる。 「なんだ、いたのか」 「ごめん、ちょっとぼーっとしてて」 「お前がぼーっとするなんて珍しいな」 「ちょっとね」 苦笑しながら部屋に招き入れて、扉を閉める。 見慣れた背中は疲れている様子もなくて、そのことには安心した。 「書類は?終わったのかい?」 「一応な。あとはクマに押し付けてきた。で、夕食すませてからここに来た」 「フリックが?珍しいね、いつもは逆なのに」 「あのなぁ…」 それを自覚しているのか、情けない声を出すフリックにくすくすと笑って、それからは少し申し訳ない顔をした。 「?」 「ごめんフリック、僕まだ夕食すませてなかった。疲れてるだろうし、フリックはここで少し待っててくれる?」 すぐに戻ってくるから。 そう付け足して、は謝る仕草をした。今気づいたが、あの本を読んでいたせいですっかり忘れていたのだ。 (そんなに集中しなきゃ読めなかったんだ…あれ…) つい数分前までの自分を思い出し、その内容もつられて出てきそうになって慌てては頭をふった。 そんなの様子にフリックは怪訝な顔をして、手袋を外した利き手での頬をなでた。 何よりも安心する、暖かい手。 なでてくれるそれが気持ちよくて目を閉じそうになるが、すぐ近くにある心配そうな顔のフリックを安心させるために軽く笑む。 「まだ食べてなかったのか?どこか調子でも悪いとか…」 「ごめん、違うんだ。…あの本、読んでたら」 「本?」 が指差した方を見やり、フリックはテーブルの上の本に気がついた。 「そうか。おもしろかったか?」 「…だったらよかったんだけどね…」 「?おもしろくなかったのか?」 本好きのは、時々時間も食事のことも忘れて読みふけってしまうことがある。 そのことをフリックもよく知っているから、彼は何の気なしに聞いたのだろうけれど。 はつい、目をそらした。 「…いや、まあ…うん…どうだろうね…」 「珍しいな、そんな言い方するなんて」 いつになく歯切れの悪い返事、そして目をそらすに、フリックが笑う。 そして自分の頬をなでていた手でそのまま前髪をかきあげられて、思わず上目遣いになった。 「とりあえず夕食食べてこいよ。お前ただでさえ食が細いんだから」 「…ん、ごめんね。すぐに戻ってくるから」 せっかく仕事が終わって会いにきてくれたのに。 は少しでも早く戻ってこようと、レストランへ行くために慌てて部屋を出ていった。 「で、これがその本か」 仕事も終わった今、がいなければこの客間ですることは何もないフリックの意識は、自然と先程の話題へと向かう。 ベッドの近くにあるテーブルにのった、小さめの本。 他にもテーブルの上には綺麗な花が生けられた花瓶が置いてあり、幹部である自分の部屋には、当然だがこんな花瓶なんてものはない。 別になくて構わないのだが、ふと今自分のいる部屋を見渡すと、部屋のかしこに些細な気遣いが現れていて。 トランの英雄にと用意されたこの客間は立派で広く、あの軍師の強い指示があったのだと一目で分かる。 まあ確かに、自分の師が軍主として対していた相手を小狭い部屋に押し込めるわけにはいかないだろう。 その上は文字通りトランの英雄だ。 未だ同盟を結んで一年もたっていないのだ、それなのにトランの―――特に上層部が心酔しているを変な扱いでもしたら、あの大統領や幹部達が何を言い出すか分からない。 軍師というのもなかなか大変だなと思いつつ、その小さめの本を手にとる。 どうせ暇なのだし、珍しくが言いよどんでいた本の内容も気になった。 一体どんなものなのかと、フリックはパラリと本をめくった。 軽く早足で、は部屋に向かっていた。 夕食の時間帯を過ぎているからか、レストランは割かしすいていたので手早く終わらせることが出来たのだ。 それでも三十分はかかったから、フリックが暇しているのが容易に想像できて思わず足が速まる。 ようやく自室の前まで来て、謝らないとなぁなんて考えながら扉を開けた。 「フリックごめん、待たせちゃったよ…ね…?」 ベッドにフリックは座っていた。 しかし、どこか様子がおかしい。いつもはすぐにこっちを見てくれる目が、ある一点を見つめたまま動かないのだ。 「フリック?どうかした?」 とりあえず扉を閉めてそちらに寄って行く。近くにきた気配にようやく気づいたのか、フリックはやっとを見た。 「あ、ああ…。おかえり」 「うん。ごめん、待たせたね」 「いや、それはいいんだが…」 笑いながらもどこかぎこちないフリックに、は首を傾げる。 そしてその手元を見て―――原因を悟った。 フリックの手にあるのは、あの。 「……フリック、それ…」 「あ、いや…どんなものかと思ったんだが…」 あの、カミューからもらった本がフリックの手にある。ということはつまり。 「…………読んだ…よね」 「……ああ…」 フリックがそれを読んだということはその表情からも分かっていたのだが、つい確認してしまう。 できるならば読んでもらいたくはなかった。 何となく恥ずかしくなって、は口篭もる。 「え、と…」 「…お前も、こういうのがいいか?」 「は?」 ただ単にそれはカミューからもらったもので、自分が愛読しているわけではないと言おうとしたのだが。 フリックの言葉に、つい間抜けな声が出た。 見れば、フリックは照れたように頬を指でかいている。 「俺にはこういうのはできないんだが…こういうのが、いいものか?」 言って手元に視線を落とした。 そこには、いわゆる恋愛小説の一部分の文章なのだが、問題はその文章の内容にある。 そう、ただの恋愛小説ならば、あそこまでが集中力をつかうこともないのだ。 笑い出してしまうのをこらえることもない。 しかし今フリックの手の中にあるそれには、やフリックには、というか、普通の男性ではとても素の状態では言えないような言葉の羅列。 フリックの言う『こういうの』を理解して、は一気に顔を赤くした。 「ち、違う!それはカミューさんからもらったもので、僕が買ったわけじゃないよ」 「カミュー?」 その人物の名前に、ようやくフリックの表情に別のものが入る。 「今日の昼間、読み終わったからどうですかって言われて。暇だったからもらったんだけど、読んでみたら…そういうのだろ」 言っているうちに昼間読んだ文章が頭の中に次々と浮かんできて、は俯いた。 同意を示すフリックも思い出したのか、目が天井に向いている。 「でももらったから、最後まで読まないと失礼かと思って読んでたんだけど…もう耐えられなくて」 そしたらフリックが来てくれたから、置きっ放しにして夕食を食べに行ったんだ、と。 の話を聞いて、フリックは深く息をついた。 「フリック?」 「…安心した。お前がこういうのが好きで読んでたのかと思って。…正直俺にはできないから、どうするかって」 「そこに書いてあるようなこと言われたら、僕だって困るよ。耐えられないし」 困ったようにそう言いながら、はそろそろとベッドに―――フリックの隣に座る。 見上げるとフリックは情けない顔をしていて、多分自分もしてるんだろうと思いつつゆっくりとフリックによりかかった。 「…フリックは、そのままがいい」 「…」 不器用でお人よしで、それでも誰よりも優しくて暖かい、そんなフリックが好きなのに。 「平気でああいう言葉を言えるフリックなんて…嫌だ」 大体そんなことになったら、間違いなく更に女の人達にもてることになる。 そんなのは嫌だ。 そう伝えるように抱きつけば、頭をぽんぽんと優しく叩かれて。 「俺も、そういう柄の俺は嫌だ」 その言い方が何故かおもしろくて、の顔に笑みが浮かぶ。 「だからお前も、変なこと考えるなよ。な?」 を抱きしめる手が暖かくて、その不器用な言葉が嬉しくて。 やっぱりこのフリックがいいと思いながら、目を閉じた。 腰が痛い。 あの本のせいで―――というよりはおかげと言った方が正しいかもしれないが、お互いに気分が盛り上がってしまって。 いつもよりもひどい痛みに少しの恥ずかしさを感じながらも歩いていると、ふと向こうに昨日本をくれた問題の男の姿。 が気付くのとほぼ同時にあちらも気付いたのか、昨日と変わらない笑顔を見せてくれて。 「おはようございます、カミューさん」 「おはようございます。…どうやら、お役に立てたようですね」 「…え?」 何が、と見上げたに、カミューは悪戯っぽい笑みを向ける。 「庇っていらっしゃるようですが、分かる者には分かりますよ?」 その言葉に、思わずは目を瞠った。 カミューが何について言っているかなんて、当事者であるが分からないはずがない。 瞬時に彼が何を言っているのかを悟り、カァと音を立てるように頬が赤く染まったのを自覚しつつも見上げれば、そこには人のいいとしか言えない笑顔が。 「え、あ…か、カミューさん?」 「はい」 「ご、ご存知なんです…か…?」 何をと、主語がなくてもこの男ならば分かるはずだ。 頬は赤いまま、それでも問い掛けると、その様を楽しそうに見ている相手は肯定も否定もせず、ただ見事としか言いようがない笑顔が返されて。 からしたら何ともいえない沈黙が、二人の間に満ちた。 そして一瞬の後に。 はくすりと、苦笑する。 「いつから、ご存知だったんですか?」 気付けば頬の赤みもひいていて、端から見れば自分達二人は普通の会話をしているようにとれるだろう。 慌てたのはほんの僅かな間、すぐに自分を取り戻して穏やかに笑う目の前の少年に、カミューはささやかな感嘆を笑みにこめて口を開く。 「我々とフリック殿は、及ばずながら共同攻撃をさせて頂く機会がありまして。その時にちらりとマクドール殿のことをお聞きしたのでもしかして、と」 たったそれだけで。 思わず目を瞬いたに、元赤騎士団団長である男は軽く笑う。 「運がいいのか悪いのか、人よりは多少恋愛の経験がありますので。ですからなんとなく予想がついてしまった、というところでしょうか」 そう謙遜して言うカミューは、間違いなくモテる部類に入る男だ。 多少とは言いつつも実際それはどれだけのものなのかには想像もつかないが、ごく一般的なものと比べてその数が尋常でないことは確かなのだろう。 ならば感じ取られても仕方ないかもしれないと思いかけて、ふと気付いた。 先ほどカミューが言っていた我々というのは、多分彼の相棒のことだ。 話したことはないが見るからに実直そうな人だったと、は遠目に見た男を思い出す。 確か名前は。 「カミューさん」 「はい」 「マイクロトフさんにはもう、あの本の中に書かれた言葉を仰られたんですか?」 その瞬間。 いつも紳士的で、そしてどこかしら余裕が感じられる笑顔がサッと消え、代わりに驚き―――というよりは油断して隙をつかれた、そんな表情がの目に入った。 すぐに気が付いたようにハッとし、だが思いも寄らなかったところを言われて動転しているのか顔の下半分を右手で隠すカミューのそんな姿は、常に優雅で穏やかな物腰である彼とは程遠い。 それでもやはり華は失われないのだから、本当に綺麗なんだ。 カミューにとっては爆弾発言のそれを落とした時のままの笑みを口元に、そう心で呟く。 もしかして彼の宿星は美形な人を選ぶのだろうかと、故郷にいる一人の青年が頭に浮かんだ。 その隣にはきっと彼の相棒がいて、何だかんだ言いながらも息がぴったり合わさう彼らの星は、今目の前にいる男とやはりその相棒を選んだのだ。 (歴史は繰り返される。昔の人の言うことは本当なんだなあ) 本来の意味することに比べればかなり馬鹿げた事柄にそれを実感し、そしてようやく立ち直った―――とはいえ、頬に走った赤はまだ消えていない彼ににこりと笑いかける。 その笑みの言わんとするところを敏感に察した元赤騎士団団長はしてやられたというような、それでも城の女性達が歓声をあげるのが目に見えるような、そんな苦笑を口元に刻んだ。 「さすがは・マクドール殿。―――まさかそうこられるとは、思ってもいませんでしたよ」 皮肉ではなく本当にまいったとばかりに笑い混じりで投げかけられるそれに、は再度にこりと笑う。 そんな目の前の少年を見て、カミューは身の程知らずだったかと内心でごちた。 トランの英雄と謳われるこの少年を、疑っていたわけではない。 むしろ幼い盟主にいい意味で刺激を与え、何よりも彼を慕う盟主のことを、上辺だけでなくその根底まで考えて接しているのが分かるから、感謝とまではいかずともそれに近い感情は持っていた。 そしてあのシュウをして「あんな少年もいるものなのか」と言わせる彼がどのような人物なのか、自分が忠誠を誓う盟主が成し遂げようとしていることを三年前に成したということも合わせて、トランの英雄と一度話をしてみたかったのだ。 それに少しの楽しみを加えてもさしたる問題はないだろうと思い仕掛けてみたその結果が、これだ。 さすがはシュウの師である稀代の名軍師、マッシュ・シルバーバーグその人に選ばれた少年だ。 「マクドールさーん!」 元気な声に視線を転じれば、この戦争に翻弄され、それでも進み続ける盟主の姿。 「ごめん、すぐ行くよ!それではカミューさん、すみませんが」 「ええ、お気をつけて」 失礼にならない程度に頭を下げて断りをいれると、柔らかい声音を受けては達の待つ方へと足を向けた。 この痛む腰で大丈夫だろうかと、ほんの少し悩みながらも歩いていくその背中に、再びカミューの声がかかる。 「マクドール殿、一つよろしいでしょうか」 「?はい」 首だけで振り返るにカミューはほんの僅かに逡巡し、そして。 「私とマイクロトフのことですが、どこで」 内容が内容だけに言葉少なに問われたそれに、ああ、とは僅かな笑みを添える。 カミューからしたら不思議で仕方ないのだろう、どこでも何も、彼らはこの城に来てから一切そんな素振りを見せていない。 本当はこの城にやってきたその日の夜、マイクロトフに言われたので与えられている部屋以外では慎むようにしているそれを、が知っているわけもないのに何故、と。 だがそんなカミューに、は笑ったまま告げた。 「以前お二人が話していらっしゃるところを拝見して、それでなんとなく。強いて言えば、勘でしょうか」 そしてくるりと背を向けて、再び歩き始める。 後ろで本日二度目の息をのむ気配がしたが、その表情を見ようとはせずに達に手をふった。 きっとカミューは、言葉は悪いがカマをかけられ、そして見事にひっかかった己を半ば苦笑しながらも諌めているだろうけれど、今は訂正している時間は無い。 達の少し後ろにいる、三年前からの友人である風使いは自分が待たせられることを極度に嫌うから。 これ以上待たせたら怒られるかも、なんて以外の人間からしたらひどく恐ろしいその予想にくすりと笑う。 (本当は、思いつきでも勘でもないんだけれどね) 故郷にいるあの二人を思い出したら、同じ星に選ばれた目の前の人とその相棒もそうなのかもしれないと思っただけだ。 例え違くともあの男なら本気で怒ることはないだろうし、何よりもそうであることが自然に思えて。 (小さい頃からあの二人がそうだっていうのは知ってたし、ね?) 今度言ってみようかなと小さく呟いて、の脳裏に殊更慌てる青年達の姿が浮かんだ。 には甘すぎる二人が、懐かしい。 「待たせたね、。今日はどこへ行こうか?」 「はい!今日もお願いします!」 この探索が終わったら、帰ってみよう。 トランの方向を一瞬見やってから、は元気よく笑う少年に笑い返した。 2005 4 24 坊ちゃんにはカミューも勝てません。 ご精読ありがとうございました。 |