何度呼んでも声がしないと思ったら、ソファに座ったまま眠っているアレンがいた。















すー、と静かな寝息をたてるアレンを起こさないように、その身体に毛布をかけてやる。
背もたれに頭をのせているために顔が上を向いていて、寝にくくないのかとは思うがその表情は穏やかなのでそのままにしておくことにした。
たいして大きくもない二人がけのソファ、その空いているスペースにグレンシールが身を沈ませても、アレンは目を覚ますことなく。


ベッドの中でならともかく、こんな居間のソファで眠るアレンを見るのは初めてかもしれない。


目覚めのいいアレンは大抵自分より先に起きていて、そもそもアレンの寝顔をグレンシールが見るということはあまりない。
しかも大雑把なように見えて実は几帳面なところがあるアレンは、眠る時はちゃんとベッドに行く。
確か学生の頃、母親がそういうことにだけはうるさいんだと言っていた気がする。
多分それが反映しているんだろうなと、ぼんやりとアレンの寝顔を眺めた。


―――大抵の場合、立場は逆だ。

眠るのが好きな自分は、言ってしまえばどこでも眠れる。
本を読んでいたらいつの間にかソファで、というのは珍しいことではないし、実際気付いたら毛布をかけられていたり、または風邪ひくから、と遠慮がちな声で起こされたことが何度もある。
それはあまりに自然なことだったのだが、まさか同じことを自分がアレンにしてやる日がくるなんて思わなかった。

気持ちよさそうに眠るアレンは、ただ静かで。



「………」


なんとなく触れたくなって、大して離れていないアレンに手を伸ばす。
ソファで眠ってしまうほどに熟睡しているのだからそう簡単には起きないだろうとは思いつつも、何故だか少し、ためらわれた。
十四、五の子供じゃあるまいし、相手に触れるのが気恥ずかしいわけじゃない。
ただ、もしかしたら起きてしまうかもと思うと勿体無い気がして。
恋人として親友として、アレンの多くを見てきた。
寝顔だってアレンに比べればその回数は少ないが、他の人間よりは絶対に見ている。
だがこのアレンは新鮮で。
ベッドとソファ、たかがそれだけの違いなのに、どうしてこうも勿体無いと思うのか。



頬を指の背でなでると、自分よりも高い温度が伝わる。
アレンはそれに気付く様子もなく眠っていて、ふとなんだか。
「…―――」



―――ものすごく、愛しいというか。

別に眠っているだけなのに、ひどくアレンが好きだと思ってしまうのは何故だろう。
惚れこんでいるのはそれこそ学生の頃から自覚している、アレンに見せないだけでこれ以上ないほど好きなのに。
「くそ…」
音になるかならないか程度の声音で呟いて、そんなところにもアレンを起こさないようにと無意識の行動がでている自分に気付いた。
せめてもの救いは、欲情したわけではないということだろうか。
抱くとかそういうことではなく、このまま見守ってたいような。
けれど何もせずにいられるほど、この気持ちは小さくない。


頬に触れていた指をソファの背もたれに移動させる。
少し身をのりだして、しかし体重はかからないようにうまく工夫して。
眠るアレンの顔を少しの間見つめ、そして。

その額に、キスを落とした。













愛しい人、どうかいい夢を。























2005 6 25
グレンはアレンが大好きなんです。
ご精読ありがとうございました。