目が覚めて、自分が起きたことを知った。
それからすぐ間近にある相手の顔に、気づいて。
ドキと心臓が脈打った。
「う……」








長い睫毛。

整った鼻筋。

薄い唇。








(今更、なのに)

何度も見てきた寝顔。
誰よりも長く、近く一緒にやってきた。
見慣れすぎるほど見慣れているのに.


ドキドキと、鼓動はおさまるどころかどんどん早くなっていく。



「………」







ただ、眠っているだけの表情。
こっちを見ることも、低い声が聴けるわけでもないのに。

(……何でこんなにドキドキするんだ…)

顔が赤くなっているのが分かる。
この男といて、何度も起こるこの症状。

(…何で)







以前この男と大喧嘩をして行きずりの女と関係を持った時も、こうやって寝顔を見たことがあったのに。
顔が赤くなったりすることもなければ、鼓動が早くなることもなかった。
ただ無機質に眺めていただけで、何も思わなかったのに。
何で、ずっと一緒にいるこの男の寝顔を見ただけでドキドキするんだろう。
今まで飽きるほど見ているのに。



「…うー……」




こんなにドキドキ音がするのは、何で。





























―――グレンシール。


























やがて、アレンが再びうとうととしてきた頃。
「…ん……?」
隣がもぞ、と動いて寝起きの声が一言聞こえ、そしてうっすらと目が開いた。
「…起きた、か?おはよう」
至近距離のまま問い掛けると、寝ぼけた目がそれでもアレンを捉える。
「……」
腕が、アレンの頭にまわって。
「…おはよう」



朝一番のキスに、また心臓が脈打った。













幸せな、音。





































































まどろみながらの目覚めというのは気持ちがいいもので。
何度か瞬きをしてから、浮かんできたあくびをそのまま解き放った。
それからつられて出てきた涙をもそもそとぬぐい、上半身を起こして隣を見る。
「……」


気持ちよさそうに眠っている彼の顔は幼い。
これで本当に自分より年上なのかと、彼と一緒に過ごすようになって何度目になるかも分からない疑問を今再び思って、そっと髪をなでた。
昨夜乾かさないままにベッドに入ったせいで所々はねているが、感触のよさは変わらないことに満足して微かに微笑む。
「ん……」
触れられて少し意識が覚醒したのか、言葉にもならない声がもれた。
(ガキか、お前は)
そう思う自分の表情は、普段よりも格段に。



























―――アレン。






























こうして、グレンシールがアレンの寝顔を朝見ることはあまりない。
自分の寝起きが悪いのはそれこそ物心ついた時からそうなのだし、対してアレンの目覚めはいつも爽やかだ。
だからいつも、大抵は起きているアレンを見るのだけれど。
たまに訪れるアレンより早く目覚める朝は、なかなかに楽しい。
もぞもぞと動くアレンは、なにか夢でも見ているのか。
「……む…」

(むって何だよ)

寝言に笑みながらも、そっとアレンの頬を撫でる。
すると気持ちよさそうにグレンシールの手に頬をすりつけてきて、それにまた笑みがこぼれた。
「…あまり可愛いことするな」
身をかがめて耳元に口づける。
そのまま甘噛みしてやれば、ん、と反応が返って。
開かれた唇に軽くキスをして吸い上げてから舌で首筋を伝い、体の線に沿って手を這わすとその組み敷いている相手からくすくすと笑い声がもれた。
顔をあげて覗き込む。
「起きたのか」
「起きるって。おはよう、グレン。朝からどうしたんだ?」
グレンシールと違って目覚めのいいアレンは、既にはきはきと話している。
起こされたことを怒るでもなく、楽しそうにこちらを見上げて笑うアレンは機嫌がいいらしい。
「たまにはこういうのもいいだろ?」
背中に手をまわしてきたアレンの動きに逆らわずに目元に口づけて囁きながら、自然に口元が弛む。
アレンは「まあな」と言って照れるでもなくそれを受けながら、でも、と笑ったまま口を開いた。
「ずいぶんと甘い起こし方だったけど、このままなだれこむのは嫌だからな?」
「何で」
「そうすると一日中することになるだろ?久々の休みなんだ、ゆっくりしたいし」
「久々の休みだからこそ一日中するんだろ。滅多にできないんだし」
言って鎖骨を優しく噛む。
左手で首元を撫でるとふ、とアレンの息が熱くなった。
「そりゃそうなんだけど…でも駄目だって、また後でにしよう、な?」
なだめるようなその声に、なんだか毒気が抜かれる。

(…仕方ないな)

「グレン?」
ふうと息を吐いて、そのままアレンの首元に顔をうずめた。
「どうした?」
「別にゆっくりするってだけで、特にすることないんだろ?」
「え、あ、まあそうだけど」
「じゃあこのまま寝る。付き合え」
「まだ寝足りないのか?」
「ゆっくりするんだろ?だったら寝る」
「おいグレン。…お前寝すぎだろ…」
間近から聞こえる、それでも決して不快とは感じないアレンの声。
目を閉じたまま聴くと、それはどんどん優しい音になって。
ゆるりと、眠気が訪れた。
















いつもは寝起き最悪の自分が、気持ちよく目が覚めて。
すぐ隣にアレンがいて、いつもは見られない寝顔を見ることができて。
今日は一日、ずっとアレンを独占することができて。




穏やかに意識が途切れてからも、心地いい音はずっとグレンシールのすぐ傍に。











優しい、音。























2004 8 18
二人はお互いが好きで好きで仕方ないんだよ!と思いつつ打ちました。
ご精読ありがとうございました。