「なあ」
「あ?」
のんびりした時間の中、のんびりと問い掛ける。
答えてくれなければそれでいいし、別にどうしても知りたいというわけでもない。
ただ気が向いたから、聞いてみようと思っただけで。
「お前の好きなものって、何だ?」
「睡眠」
間髪いれずに返ってきた答えは、自分もよく知っていること。
それはものじゃないだろ、なんてツッコミもしない。
もう慣れてしまった。
「他は」
「本」
それも知ってる。
学生時代、あまり本が好きではない自分が図書室に通っていたのはこいつが本が好きだったから。
先程いれたコーヒーを一口飲みながら、懐かしいとふと思う。
「次」
「…………」
「もうないのか?」
おい、それはあまりに少なすぎだろと声には出さずに表情で語る。
と。
「……ああ、あった」
思いついたのか思い出したのか、細めていた目を僅かに開いてつぶやいた。
「ん?何だ?」
多分眠いんだな、と分析しながら相槌を打つ。
すると、先程まであらぬところを見ていた視線がこちらを向いて。
「お前」
と一言、耳に届いた。
それを認識した途端、ただ目を見開いて。
「ここでいうことじゃないだろ」
とか
「お前、さっき思い出すまで俺のこと忘れてたのかよ」
とか。
言いそうになって、それを慌てて喉の奥に押し込めた。
照れくさいし驚いたが、自分が聞きたいのはそういうことじゃなくて。
いや聞きたいんだけども、できればそういうのはもっと違う時に言ってほしい。
「他は?」
「…………………」
言うと、考え込む風を見せた。
時々、自分達はこういう風に遊びにも似た質問を互いにする。
長年つれそってもふとした時に疑問は生まれるもので、そしてそれが生まれる瞬間というのは、決まって今のようにのんびりとしている時で。
考え込んでいる彼を急かすことなく、のんびりとアレンは待った。
こうやって二人で、のんびりとしているのは結構好きだ。
この前それをクレイに話したら「一生やってろ、この老夫婦め」と呆れ返った表情で言われて「そういえばそうかもしれない」と納得してしまった。
きっとずっとこうやっていくんだろうなぁとしみじみ思うが、反面旅にも出てみたいとも思う。
この国がもっと落ち着いたら、二人で旅をするのもいいかも。
そうやって色々考えていると、「あ」という小さい声が聞こえた。
いつの間にか無意識に閉じていた目を開けて、テーブルをはさんで向こうにいる男を見る。
「思いついたか?」
「ひなた」
「……ひなた?」
思いがけない答えに、きょとんと目を見開いた。
ひなた。
意外すぎる答えだ。
「何でだ?」
「昼寝しやすい」
そう言ったが最後、彼は視線を手元の本に戻してしまった。
もう答える気はないらしい。
こちらからしても、もう充分なので何も言わない。
あとは考えるだけだ。
「ひなた、か」
昼寝しやすい、と目の前の男は言った。
それはつまり、ひなたの中でこの男が昼寝をするというわけで。
「…うわ」
普段は冷めていて他人に興味がなくて、好きなものは何かと問われて瞬時に浮かぶのは睡眠と本で、相棒兼恋人の自分のことを思い出すまで時間がかかるこの男が。
ひなたが好きだ、と言ったのだ。
ひなたの中で昼寝するのが好きだと。
「…に……」
似合わない。
ものすごく、似合わない。
多分部下が知ったら爆笑か驚くか、どちらかだ。
それなのに、自分は可愛いとか思ってしまうからヤバい。
年下っぽいところを見ることができて嬉しいとか、また新たな一面が知れて嬉しいとか。
そういう、どうしようもない自分を自覚するこの時が。
アレンは好きだった。















四年ほど前に日記に書いて、一年ほど前にまた日記にのせたもの。
話として一応まとまってるのでログではなくこちらに収納。

ご精読ありがとうございました。