いつもは幸村から髪を結えといわれない限り触れないのに、抱き合う時だけは自分から触れてくる。それが嫌なわけでは決してないが、何故なのかと不思議だった。
 そして今も、髪を結っていた紐がするりと解かれて。
「……佐助」
「何?」
「お前は髪をほどくのが好きなのか?」
 いつもほどくだろう。
そう言えば、佐助は一瞬驚きの表情を浮かべてから苦笑した。
「そんなにほどいてた?俺」
自覚がなかったのだろうか、こんな佐助は珍しい。いつも自身の在りようを考え、幸村のことまでも幸村以上に気を配っている佐助が、自分自身のしていることに気づいていなかったなんて。
「うむ。いつもほどくから、好きなのかと思っていたのだが」
「好きっていうか……うん、安心のためかな」
「、…安、心?」
佐助の手が体を伝う。途端に震える体は佐助に変えられたもので、もう幾度抱き合ったか知れない。
そしてその回数だけ、この男は幸村の髪をほどいてきたのだ。
「そう。だからいつもほどいてる」
「あっ…、や、ぅ」
そこから先は、佐助の手や唇に酔わされて。
 佐助がどんな表情をしていたかなんて、分からなかった。




「ん…ぁ・ふ…っ」
反らされた背に口づける。そんな僅かな刺激にもぴくりと震えて、背に落ちた髪が小さく舞った。
 きっと、幸村は思いもしないだろう。
将来、幸村がどこかの姫を迎えなければならなくなった時。
 その時を迎えても、自分が耐えられるように髪をほどいているのだということは。
女が男にまたがることはもちろんあるが、今の幸村のようにこうして背を女に向けて、ということはないはずだ。
 幸村が女を迎え、幸村の体をその女が知ったとしても。
抱き合う時に幸村の髪が背に流れ、こちらが何かをなすごとにその髪が弱々しく舞う様は自分だけが知っている。
 ―――抱き合う度にそんな昏い喜びに満ちているだなんて、幸村には絶対に言えない。















2009.8/7
ある方にこちらから言い出してリクして頂いた小話です。
大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした!少しでも萌えていただけたら嬉しいです。

ご精読ありがとうございました。