この熱を自らほしがるようになったのは、いつからだろう。最初の頃は確かに怯えだけだったはずなのに、今の幸村の内を占めるのはただ、佐助が好きだという感情だけで。
「んっ…!ぁ・ふっ…」
「だ、んな…」
激しい動きの中、それでも彼だけが呼ぶその名にうっすらと目を開ければ、細められた瞳と視線が合った。常に飄々としているそれは、だけど自分と接している時はとても優しくなるのを知っている。
 言葉でも態度でも充分に甘やかされて、もし佐助を失ったらと時折考えてしまうほどに、この男は幸村を包み込むのだ。
「あ・…ア!?ひ…っ、うぁっ!!っ…、」
体の内を抉られては押し広げ、突かれるそれはただでさえたまらないほどの快楽を幸村に与える。縋りついて気をやってしまわないように耐えることしかできないのに、突如ある一点を集中的に攻められて頭が白に染まった。
 ガシガシと突き上げてくる佐助がそこに当たるたびに、本当に天へと昇ってしまいそうなほど。
「あぁ、あっ!っさ、…す……っひっ…!」
「こうされる、の…っ、好きでしょ…?」
「ふぁっ…っ」
奥まで埋まっていたそれが引かれ、引っ掛けられるように先端の部分にカリカリと内壁を擦られて涙がまた零れた。かと思えばまた殊更感じるところを攻められて、もう何度も抱き合っているのに全く慣れることができない。
 気の狂うような快楽の波に死んでしまいそうだ。
「ぅン…!ぁ、や・も……イ、き…っひあっ!!」
たい、と言おうとしたのを遮るように自身の先端を刺激されて背が反る。たったさっきまで幸村の左手をベッドに縫いとめていたはずの右手が、いつの間にか幸村自身に絡みついて敏感なところばかりを弄ってくる。
「や、ぅあぁっ!さす…っさ・すけ……や、めっ…」
ぐちゅぐちゅと濡れた音に内からも外からも犯される。せめてこの瞬間も突き上げてくれればまだ聞こえないのに、動かずにこちらを見下ろす視線がまた恥ずかしい。
「い・やだ、…っや、…!」
「こんなに濡らして、何言ってんの」
佐助の腹で擦られるのと突き上げられているのとでべたべたになっているだろうことは見るまでもなく自分自身を襲う快感の強さで分かりきっていたが、悦を含んだ声音で指摘されて尚羞恥が高まる。
ただ口づけたり触れ合っている時は、それこそ見ず知らずの他人に見せている表情が嘘のように優しいのに、何故わざわざそんなことを言ってくるのか未だに分からない。聞いてもいつも笑ってはぐらかすから、幸村はただ快感と羞恥に耐えるしかないのだ。
「っ……、ぅ、あっや…!も、たえら、れな・あぅっ!」
いっそ自分で、と思ったその直後、幸村が自身に触れる前にまた突き上げられて反射的にその背へ縋る。憎いほどにこちらの欲が高まる瞬間を知っていて、だけど焦らしてばかりの相手にせめてもの仕返しとして爪をたてた。
息は荒く、何か言おうとしても嬌声が溢れて言葉をなすことはとてもできなくて。
 もう限界だ、これ以上は耐えられない。
あまりの甘い責め苦に、涙がぼろぼろと零れる。
「…っく……、ぁ、う…っ」
「、…泣かないでよ…旦那」
 その声は、泣きたいほどに優しくて。
苦笑と共に、慰めるように頭をなでられて更に涙がこみあげては頬を伝った。
「ほら、イかせてあげるから」
「あ、うっ…!ひっ、ぁ、ア…っ、」
幸村が望んでいた奥の奥、そのようやくほしいところまで届く熱に、安堵にも似た感情に意識の大部分が奪われる。
「…だん、な」
段々白んでいく意識が、しかし僅かな間留めるように落とされた声に浮上する。見上げた先の佐助は眉を顰めていて、そういえばその表情はいつも決まった時に見せるものだと気付いた。
 それは今のような限界で気が狂いそうな快感のなか、だけど佐助が好きだと心から思う一瞬。
自分だけではなくて、実はこの男も切羽詰っていたのだと分かって途端に嬉しさが胸に広がる。
 だから、不意に落とされた言葉には驚いた。
「中…っ、出して、いい…?」
全身を駆け巡る快感も、その時だけは吹っ飛んだ。
 何を、言っているのだろう。今更だ。今まで何度も抱き合って、それこそ最初の、あの強姦以外の何ものでもない時からそうしてきたのに。
「合意の、元でするようになって、から…、そういえば、聞いてなかった…っ、でしょ?」
―――合意。
短いその単語に、思わず目を見開いた。
「あ…アアアっ!」
しかし休む間は与えないかと言うように脚を大きく広げられ、より強く佐助が入ってくる。生じる快感は凄まじく、だけど何よりも気持ちいいのは。
 表情を読んだのだろう佐助の、言葉。
「あぅっア…!ひっあ  ふ…、っ」
 最初からずっと、自分達は常に一方通行だった。佐助と幸村が互いに抱く思いは似通っていてもあまりに違いすぎて、幸村が抱く純粋な愛情も、佐助が抱く執着と恋情も、お互いに持ちえるものではなかったのだ。
幸村が佐助に抱く感情が変わっても微妙なところですれ違いは続き、それが何よりも悔しくて辛くて、心が痛くて仕方なかったのに。
 なのに、やっと。
「っ、ね……、中…だして、いい…?」
返事をしない自分に焦れたのか、動きはどんどん早くなるのにそれでも返事を待とうとする佐助が愛しい。
ようやく、ようやく対等になれたのだと。ただそれだけが、どんなに嬉しいか。
 佐助には、きっと分からない。
「ぁ、あ…ふ、んぅっ!…っし、て……れ…っ」
もう力など入らない腕を伸ばして、佐助を引き寄せる。
どんどん追い上げられていく体は熱いが、それ以上に心が。
「…な、か…っ、だし、て…く・れ…!」
俺も、その方が嬉しい。
 普段は邪魔する羞恥心など諸々全て投げ出して伝えれば。
ひどく驚いた表情のあと、佐助は幸せそうに笑った。




















2008.7/24
佐助に「中に出していい?」と言わせたいがために書きました。

ご精読ありがとうございました。