「ひあっ…!」
「っ、は……っ、」
ほぼ同時に果て、幸村の中に欲を注ぎ込む。それすらも刺激になるのだろう、果てたことにより震える体が、また違う風に跳ねた。
荒々しく息をつくその姿は艶っぽく、しかしすでに何度も果てた身だ。これ以上は幸村が辛いだろうと、熱を煽るためでなくいたわるためにその背を撫でる。
「ん…っ、さ、佐助……も…う」
「分かってるよ、旦那。…大丈夫?」
無理だ、と見上げてくるそれに微笑んでやれば、返事の代わりというかのように目を瞬いて、潤んでいたそれから涙が伝った。背を撫でていた手でぬぐってやると、甘えるように頬を擦り付けてくるのが愛しくて仕方ない。
 普段の彼は、決して他人に甘えてくれるような人じゃないから。
だからこそ自分と二人の時、たまに見せてくれるこの瞬間が尚のこと愛しくて。
未だ息の整わない幸村の背を再度なでてから、それでも後々のことを考えるとこのままにしてはおけないと行動に移る。
「旦那、少しごめんな」
「…?…っ、あ…!」
最後はもう力が入らず布団にうつ伏せた幸村の腰だけを持ち上げて、悪いと思いながらも好きに動いたから今はもう本当に力が残っていないのだろう。片腕で幸村の腰を抱き、つい先ほどまで佐助自身がおさまっていたそこに空いている腕の指をいれても、幸村は抵抗どころか体を起こすこともできないようだ。
何度も放ったせいで、奥へと指を進めていくたびにぐちゅぐちゅと濡れた音が響く。
それをしたのは間違いなく自分なのに、幸村の中を満たしたという事実に容易く熱がよみがえってきてしまいそうで。佐助は苦笑しながらも己を自制する。
 体力のある幸村が疲れてしまうほどだ、いくら幸村の方が負担が大きいことを差し引いても、それでも充分なほどの回数は重ねた。
なのにまだこの人を求めるのかと、どれだけ幸村を抱いても満足しない己に苦笑は深まるばかりで。
「やっ…!ぅ、あ、やめ……っま、て佐助…っ」
「このままにしておくと後が大変だからね」
「あ・や…っ!」
中に放ったそれを、ゆっくりとかきだしていく。
 一応気をつけてはいるが元々が狭い内だ、どうしても内壁に触れてしまう刺激に幸村が涙声をあげる。勘弁してくれと自分が思うのはお門違いだということは分かっているが、背筋に痺れるような感覚が走るのは止められなかった。
 いつもは幸村が意識を失っているから至極穏やかにすませられていたが、これはなかなかに厳しいものがある、と。
うつ伏せの幸村には見えようもないことを分かった上で表面には一切出さずに内心で呟くと、不意に佐助、佐助と名前を連呼された。
「旦那?どうしたの?」
まさかとは思うが痛かっただろうか、顔を覗き込むと瞬時に首を振られて再び名前を呼ばれる。その顔は紅潮していて今まで数え切れないほどに、そして今夜幾度も見たそれで。
 ああ、と唐突に理解した。
考えてみれば幸村の反応は当然で、何故すぐに思い当らなかったのかといえば幸村の嬌声や体の震えを敢えて意識から外していたからだろう、気づくのが遅れた。
 見れば幸村自身はゆるりと昂っていて、何度も指を往復させている中はとめどなく熱い。息は荒く体は小刻みに震え、旦那、と呼びかけると即座に頭を振る幸村は本当に止めてほしいのだろうが、このままで辛いのは幸村だ。
「………」
少し考えて、息を吐いた。明日、もしかしたら最悪殴られるかもしれないがこれは仕方ない。
敏感すぎるのも考えものだと思いながら、しかしそこまで幸村を変えて見せたのは間違いなく己で。結局は苦笑いを浮かべたまま、避けていたそこを指先でぐりぐりと押してやる。
「ヒ・あぁあっ!ん、佐助っ……ぁ、やあっ」
「お咎めは後で受けるから。…そのままだと辛いでしょ?」
「やっア!…っも、……もう、イきたくな…っあ、んくっ…!!」
腰から腹にかけて支えている手に、反り返った幸村があたる。普段ならば焦らすところだが疲れきっている今の幸村にそれをする気はない。敏感なところを刺激してやって早めに果てさせてやるのが一番だろう。
もう一本指を増やしてもすんなりと呑み込む様には劣情がかきたてられたが、この上更に幸村に負担をかけようとはさすがに思えなかった。
「ん、あ・やっ…いや・だ、…っ!」
「ごめん、でももう少し耐えて?」
「・ふ……、さす、け…」
肩越しに寄せられる視線につい、こめかみに口づける。次いで目尻から頬、肩へと移動していくとじっと見つめられ、目で問いかければ大きな瞳が伏せられた。
「旦那?」
「お前、は…っ、ず、るい」
突然言われたそれに内心首を傾げながら、背中へ口づけては指で中を刺激する。一々あがる声に反応してしまう己は抑え、腰から腹にかけて支えている方の手で幸村自身に触れた。静止の言葉を発した幸村に構わずに扱き始めると、途端に先端から溢れる先走りの量が増えて。
「やぁあっ!あ!」
 幸村の熱が、あがった気がした。
これ以上長引かせるつもりはなく、幸村の好む攻め方で一気に追い上げてやる。
 軽く爪の先で幸村自身の先端を引っ掻き、反射で指が締め付けられるがわざと乱暴に抜き差しを繰り返す。その際に中の敏感なところを抉るのも忘れず、裏の筋を大いに指の腹で擦ってやった。
「あっあ!っく、やあ佐助っ…ま、てっ待て・っ…!!」
「…あれ?旦那?」
しかし幸村自身に這わせた手には何も受けず、幸村は荒々しく息をついているだけで。
びくりと大きく体が跳ねたのも一段と高くなった声も、今の様子は間違いなく果てる時のものだったのに何故だか幸村は必死にこらえたらしい。見ればいつの間にか布団を掴んでいた両手は力が入りすぎて手の甲が白くなっていて、何故そこまでと不思議に思う。
 確かにそれまで回数を重ねすぎて、もうイきたくないとは言っていたがそれでは幸村が辛い。分かっているだろうに、何故わざわざ耐えたのか。
「旦那、一度イっとかないと辛」
「……鹿者…」
いよ、と言う前に小さな声が聞こえて、耳を傾ける。顔を覗きこめば潤んだ目で見返されて、というよりは睨まれて、しかも何だか怒っているよう、な。
「旦那?」
「…俺だけなど、と……、馬鹿者が」
「いや、だって…疲れてるでしょ」
「馬鹿者」
少しは息が整ったのか、未だ口調は弱いが間髪なしに返される。幸村が何を言いたいのか分からずに口を閉ざすと、更に目の力が増して。
「あ、あのように口づけておい、て…俺が、お前を愛しいと思わぬわけがなかろうっ…!」
瞬間浮かんだ答えに、佐助は思わず目を瞬いた。
 それは、つまり。
疲れきっているのに否応なしに高められ、しかし佐助が幸村の内から自身の欲をかきだそうとする理由は最もで、嫌だと言いながらも果てるしかないのは分かっていた。例え佐助の手によるものでも疲れきっている体には最早苦痛でしかなく、早く終わってほしいとさえ幸村は思っていたはずだ。
 なのに。
「…佐助…?」
目の前の人の体を抱きしめる。
幸村が愛しくて、愛しすぎて胸の内が熱い。
 こめかみや目尻などに口づけたのは、ただ自分がしたくなったからだ。言うなれば自己満足で、それ以上の意図は決してなかったのに。
それなのに、疲れきっていて仕方ないだろうに、一人だけでは嫌だと言ってくれて。
佐助からしたら何気ない、たったあれだけのことで自分を欲しくなってくれるなんて。
 ―――どれほどまでに想ってくれているのだろうと、幸せすぎて頭がくらくらしてきた。
「全く…困ったお人だよ」
呟けば、何故それを言われるのかわけが分からないといった表情を返される。だがそれは一瞬で、途端に表情が弛んだのは先ほどと同じく、自分の何かが幸村の心の琴線に触れたからなのだろうか。
 何年仕えても完全に捉えることは適わない主に、しかしそれこそが幸村なのだと深く想う。
「ぁっ…!…うおっ?」
散々内を刺激していた指を抜いて幸村の体を仰向けにする。膝裏に腕をまわすと反射的に強く目を瞑った幸村に笑って、だけどその前に。
「っ、……?」
額に口づける。
予想していた内への侵入ではなく、額へのごく軽い触れ方にぱちりと幸村が目を開いた。驚きとまではいかないが意外だったという色を湛えた瞳に構わずに、今度は唇に口づける。すぐ離れると、至近距離で名前を呼ばれた。
 見下ろせば、不機嫌そうながらに頬を赤くした幸村が。
「…お前は、ずるい」
「旦那ほどじゃないと思うけど?」
間髪いれずに返し、今まで何度も受け入れてくれたそこに昂った自身を押し当てる。
 ぴくりと震えた幸村に再び口づけて。




「無意識に好きにさせてくれんだからたまんないよ。…ほんとに」
























2008.8/15(公開日9/16)
佐助が無意識にしたことで幸村が煽られて、それを幸村が佐助に言ったことで更に佐助が煽られて。佐助からしたら発端は自分でも、無意識に倍返ししてくる幸村の方がずるいのです。

破廉恥祭り最終日は甘々で締め。
三日間ありがとうございました!